天使祝詞 ウリエル
The Boys On The Rock

 ・・・ひとりのこどものために

人間の中で
いつもわたしは震えていた一人のおさな子だった
ふたおやの不当な暴力に 無力であり
理不尽な要求に 声を震わせ 慄き
欲望の魔の手に この身体を差し出すしかなった
いつでもわたしは
自分自身を投げ出す定めに生まれてきたのだから
薄汚れたわたしの顔を 大人の視線から見くだす 彼らには
わたしがマラーク*だとは 金輪際気づきはしないだろう
神の使徒を自任するものたちですら
わたしの外見や境遇や人格に触れ
神のみわざに 感づくものは少ない
わたしは いつも産業廃棄物の最終処理場の
油染みた鉄管や折れた軽天材や塗料の残る空き缶の山の上で
削りとられる山々を見てひとり泣いていた
人の世の穢れを一身に受け
奇怪に捻じ曲がった樹齢数百年の老木に手を当て
無言の絶叫をあげている聖霊に
何も施すことができないことを 反復して自覚するしかなった
日ごと増大する人の世の悪徳に
わたしとて 怒り 悲しみ 歎き そして無力の肉体を抱えて
唖然と成り行きを見守るしかなかった
天の威光など人の世には無意味と
乱暴に投げ掛つけられた元司祭である父の言葉に
返す言葉を持たなかった
ただ わたしは永遠に結ばれた唇で伝えていたのだ
わたしは 進んでその汚濁の中へ身をおいていることを
人の作り出した 巨大な黙示録の獣の眼前に香ばしい天使の肉体を差し出していることを
生まれてから 生きたえるそのときまで
獣であるちちははに 無力であることの意味を伝えていたのだ
さあ 屠り食らうがよい そして 知りたまえ
わたしは 知っているのだ
イスラエルの始祖と力を競い 祝福したことを
コキュートスのルシフェルを監視し 地獄の扉の鍵を保持していることを
栄光の翼はいまだ輝きを失っていないことを
地上では一番小さいものが 天国では一番尊いものであることを
そして み使いであるわたし自身が そのことを実証していることを
ゆえに
わたしは 神の光なのである

*ヘブライ語で神の使者


自由詩 天使祝詞 ウリエル Copyright The Boys On The Rock 2006-09-23 17:25:27
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