金木犀
銀猫

秋の空気には
透明な金木犀が棲んでいる


陽射しに晒した腕が
すこし頼りなく感じ始める頃
甘く季節を騙す匂いは
思い出の弱いところを突いて
遠くにいるひとの微笑みだとか
風邪気味の声だとか
そういう愛しいものを
取り出しては
日向に並べてしまう

秋には
それを冷ますちからは無く
ただ
透明を風にして
きんいろに変える


秋の空気には
届けぬ手紙が埋もれている

手紙には
踵の折れた靴を履いた恋や
すっかり熟して甘くなった哀しみが
幼い文字で書かれていて
ところどころ便箋から滑り落ちては
金木犀の根元に転がっている

ほろろ、きんいろの花咲く





自由詩 金木犀 Copyright 銀猫 2006-09-22 16:52:29
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あきの花