金木犀
銀猫
秋の空気には
透明な金木犀が棲んでいる
陽射しに晒した腕が
すこし頼りなく感じ始める頃
甘く季節を騙す匂いは
思い出の弱いところを突いて
遠くにいるひとの微笑みだとか
風邪気味の声だとか
そういう愛しいものを
取り出しては
日向に並べてしまう
秋には
それを冷ますちからは無く
ただ
透明を風にして
きんいろに変える
秋の空気には
届けぬ手紙が埋もれている
手紙には
踵の折れた靴を履いた恋や
すっかり熟して甘くなった哀しみが
幼い文字で書かれていて
ところどころ便箋から滑り落ちては
金木犀の根元に転がっている
ほろろ、きんいろの花咲く
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あきの花