堕天使達の夜
服部 剛
人々が漏らす溜息で
街の輪郭が歪む土曜日の夜
場末の Bar の片隅で
翼の生えたアダムとイブの人形は壁に凭れ
虚ろな瞳で古時計をみつめている
縫い合わせることのできない
破れたハートの隙間を
飲み干す酒で暖めようと
カウンターで再会した二人
グラスを重ねる音が響くと
古時計の長針と短針は
ゆっくりと逆回転を始める
午前2時
人気ないカウンターに取り残された二人は
店を出て 肩を組み
千鳥足で揺れる路地裏で
砕けた腰を地べたに落とす
煉瓦造りの家々の上
遥かな夜空を見上げれば
滲んで 瞬く 金星
と グレープフルーツみたいな月 *
虚ろな瞳で
一つの星をみつめ
いつかの懐かしい温もりを求め
互いの手を冷たい地べたの上に探す二人は
汚れた翼を休めて夢を見る
月明かりに照らされた
家々の黒い輪郭が歪む
堕天使達の夜
* 自家版詩集「明け方の碧」(01年)より
* Tom Waitsの歌「GRAPEFRUIT MOON」より引用。