白の質量
umineko

祖父が亡くなってからずいぶんの時が経つ
お骨になった祖父は白く そしてもろかった

まだ暖かい祖父の骨を私たちは火ばしでついばむ
生きている者を火ばしで持ち上げたりしないすなわち
祖父は名実共に祖父ではなくなり
白い質量としてそこにある
証左として

私はよく怒られた
祖父の語る物語はどこか荘厳で
スサノオとヤマタノオロチの伝説を
私は正座して聞いた

祖父の厳しさが
私はだから苦手だった
厳しいものを子供は愛さない
たぶん人は知っているのだ
そうして大人は寛大になり子供たちは油断し
世界はやがて崩れていく

持ち上げた祖父の白い骨
その薄さは貝殻骨 肩のあたりか
あの厳しさがこんなにももろく
私の前で崩れていく

私はその間ずっと泣いていた
祖父想いのひとりの孫として認識されたかもしれない 
だがすでに大学生 大人である
おそらく
もっと別の場所に理由があった それは

死に目に会えなかった、とか
もっともっと話を、とか
どれも違う
私は

存在を

失うということに涙したのだ

もう
祖父を思い出すことはほとんどない
祖父の暮らしていた離れの家は
度重なる豪雨で浸水していた
雨漏りのその家に入るといつも
祖父の匂いがする

私は
存在を思う
空に帰った魂を思う
質量だけが丘に在り
残りの祖父は浮遊している

地球の質量は変わらない
ただ
魂だけが行き来する
私もたぶん残らない
私の書いた文字も 
消える
消える

存在を思う
消えてゆく
私を思う

今なら
祖父といいお酒が飲めるだろう

そんな気がする






自由詩 白の質量 Copyright umineko 2006-09-17 07:27:35
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