断髪式 
服部 剛

鏡に映る「私という人」は
だらしなく伸びた髪を 
ばっさ ばっさ と刈られていく 

( 少しくたびれた顔をしてるな。 
( いつのまに白髪が混ざりはじめたな。 

幼い頃 
日向ひなたぼっこの床に新聞敷いて 
ちょこんと坐った背後から 
婆さまが握る手動ばりかんで髪を引っ張られ 
小さい痛みに震えてた 

( 鏡に映る、三十歳みそじひとよ 
( お前はあの頃の「ぼくちゃん」と 
( いい加減おさらばしたであろうか・・・ 

店内には
花柄のTシャツにミニスカートのお嬢さんが
ほうきを手に刈られた黒髪を掃いている 

( おいおい、いつまで見とれておるか。
( 魅惑の花と気持のよいことを指折り数え 
( ぽ〜っ と上を向いたらきりがない・・・ 

( 幻と消える花々に 
( 飢えたその手を伸ばすより 
( たった一つの熟した愛を、
( そろそろ探す、旅に出ないか 

髪を短く刈られた「三十歳の男」 
入店前よりも少し きりっ とした顔つきで 
床屋の開いた自動ドアから出ていく 





自由詩 断髪式  Copyright 服部 剛 2006-09-13 22:38:21
notebook Home 戻る