断髪式
服部 剛
鏡に映る「私という人」は
だらしなく伸びた髪を
ばっさ ばっさ と刈られていく
( 少しくたびれた顔をしてるな。
( いつのまに白髪が混ざりはじめたな。
幼い頃
日向ぼっこの床に新聞敷いて
ちょこんと坐った背後から
婆さまが握る手動ばりかんで髪を引っ張られ
小さい痛みに震えてた
( 鏡に映る、三十歳の男よ
( お前はあの頃の「ぼくちゃん」と
( いい加減おさらばしたであろうか・・・
店内には
花柄のTシャツにミニスカートのお嬢さんが
ほうきを手に刈られた黒髪を掃いている
( おいおい、いつまで見とれておるか。
( 魅惑の花と気持のよいことを指折り数え
( ぽ〜っ と上を向いたらきりがない・・・
( 幻と消える花々に
( 飢えたその手を伸ばすより
( たった一つの熟した愛を、
( そろそろ探す、旅に出ないか
髪を短く刈られた「三十歳の男」
入店前よりも少し きりっ とした顔つきで
床屋の開いた自動ドアから出ていく