タツノオトシゴの秩序
ブルース瀬戸内

一見、ト音記号のような
タツノオトシゴは

誰のためでもない、その姿形で
何のためでもないかもしれない
秩序を求めて

海中を
ゆっくりと動き回ります。

秩序なんて結局は
何にも解決してくれないのに
と、いっちょまえに
言い聞かせているくせにです。


タツノオトシゴは小さなヒレを
誰よりも速く動かして

何のためでもないかもしれない
秩序を探して

海中を
ゆっくりと行き来します。

秩序なんて結局は
今日も明日も照らさないはずなのに
と、背伸びして
思い込んでいるくせに


一見、ト音記号のような
タツノオトシゴは
口をとんがらせて
今にも歌い出しそうな姿形で
動き回っています。

高速で動く小さなヒレが
音符みたいな泡を奏でて
タツノオトシゴのあとに
続いていきます。

ヒレの速さとは反比例に
ゆっくりと動く
非効率なタツノオトシゴは
秩序を探して、随分と探して
海に譜面を描きます。

自分の生きた後ろにできた秩序に
さっぱり気づかない
タツノオトシゴは
今日も口をとんがらせて
今にも歌いだしそうな姿形で
泡を連れてゆっくりと動いて
なんだか大作を紡ぎそうです。


自由詩 タツノオトシゴの秩序 Copyright ブルース瀬戸内 2006-09-12 00:12:23
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