背中

ぬくもりは、いつも
土の匂い 木の匂いで出来ている

どれほど年老いても、銭湯の湯気の中
その存在感には
富士山も
霞んで消えて、行くばかり

角材を担ぎ上げる姿 のこぎりをひく横顔
鑿に向かい、振り下ろされる
木鎚を握りしめた、腕(かいな)の速度

どの瞬間にも、見えていた
海老ほどに、丸める齢になろうとも
決して隆起しない背骨
深い、一本の溝が


語っているのだ
口べたで、どもり口調のくせして
今時 キャッシュカードすら使えない、古い男が
どんな書物や歴史上の人物の名言よりも
圧倒的に、確かな説得力で



入歯を外して、クシャおじさんの顔で酒を呑む
決して、啜ったりはしない
ほろ酔いの真っ赤な顔で、猫みたいに笑っているのに
後ろから見やれば、いつまでも

親父、の2文字が
いついつまでも、肩をいからせながら
腰を据え、そそり立っている
雄大で、見事すぎる 独特の風情を醸しながら










・・ずるい、ずるいよなぁ。あんまりだよ。




自由詩 背中 Copyright  2004-03-10 21:57:27
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