土手
アンテ


あたたかい午後
ゴザを抱えて
カナコさんと二人
河原の土手に出かけた
スケッチブックを広げて
あたりの花をスケッチしながら
カナコさんを見ると
うつぶせて両足を交互に折りまげながら
難しそうな本を広げていた

お絵かきソフトは
便利な機能満載だ
同じ絵をいくつもコピーできるし
失敗したら「元に戻す」
途中でやめたくなったら「保存」
色を変えるのも簡単簡単

このまえ
カナコさんの絵を描いてみたけれど
うまくいかなかったの
スケッチブックの紙をめくって見せた
わたしが知っているカナコさん
はみんなとすこし違うらしい
おせんべいの袋を開けて
ひとつ手渡すと
カナコさんはぱりぽり齧った
わたしと一緒のとき
けっして青い服を着ないし
ゆっくり言葉を選んでしゃべる
お化粧もしない
花畑を優雅に歩くカナコさんの
表情がうまく描けなくて
髪の色で顔を塗りつぶした跡
指でなぞりながら
カナコさんはくすくす笑った

カナコさんの本は
漢字とカタカナばかりだ
もごもごと言葉を噛みしめている
様子がおかしくて
牛の絵を描いてみると
今度はちゃんと
カナコさんの顔になった

人の記憶も
コピー&ペーストしたり
消去したり
できれば面白いのにね
そう言ったら
カナコさんが突然怖い顔になった
スケッチブックを閉じて
ゴザに寝ころがる
陽射しがあたたかくて
コピーしたみたいに
二人同時に欠伸をした
「終了」を選んで
目を閉じる
ぱりぽり
おせんべいを齧る音
こんな風にカナコさんと
また一緒にすごせるだろうか
くすくす
カナコさんみたいに笑ってみた
あたたかい手のひらが
わたしの頬を撫でた



自由詩 土手 Copyright アンテ 2004-03-10 01:07:59
notebook Home