たどりつけずに
ささやま ひろ

2枚目のハンカチで汗をぬぐう
いつものこと

当たり前に夏がきて
もうすぐ去っていく

スクランブル交差点の人ごみの中
ふと君とすれ違った気がした

振り返った瞬間には
ごく普通の現実があるだけ

思い出しても
思い出すことさえも


僕は君よりたくさん生きた
偶然のこと

笑えることもあるけれど
涙をこらえたりもする

通勤電車のすし詰めの中
君の声を聴いた気がした

耳を澄ました瞬間には
もう誰の声でもなくて

思い返しても
思い返すことさえも

君が突然逝ってから
僕は15回目の夏を迎えた

想い出への固執は
生きる力と反比例し

人が忘れる動物であることを
恨み
そして救われる

悲しみではなく
苦しみではなく

僕は
どこにもたどりつけない







自由詩 たどりつけずに Copyright ささやま ひろ 2006-09-05 00:51:39
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