たどりつけずに
ささやま ひろ
2枚目のハンカチで汗をぬぐう
いつものこと
当たり前に夏がきて
もうすぐ去っていく
スクランブル交差点の人ごみの中
ふと君とすれ違った気がした
振り返った瞬間には
ごく普通の現実があるだけ
思い出しても
思い出すことさえも
僕は君よりたくさん生きた
偶然のこと
笑えることもあるけれど
涙をこらえたりもする
通勤電車のすし詰めの中
君の声を聴いた気がした
耳を澄ました瞬間には
もう誰の声でもなくて
思い返しても
思い返すことさえも
君が突然逝ってから
僕は15回目の夏を迎えた
想い出への固執は
生きる力と反比例し
人が忘れる動物であることを
恨み
そして救われる
悲しみではなく
苦しみではなく
僕は
どこにもたどりつけない