回遊する少女2 (ルリツグミ)
佐野権太

  あなた、ルリツグミのヒナと
  お昼寝をしたことはあって?



風を確かめるように浮かべた
少女の白いあご、のライン
穏やかな微笑みに
たたまれてゆくまつげ



  青い鳥なんて呼ばれてるけど
  初めから鮮やかなわけじゃないの
  遥か世代の哀しみを
  幾重にも塗り重ねていくんだわ

  ヒナのうちは
  ときどきつまづいたりして
  うまく鳴けないの
  そんなときは、ころん、と
  ふて寝しちゃうわ
  そう、手のひらのぬくもり中でね

  ときどき
  羽根を膨らませて
  小さなまぶたをしわくちゃにしながら
  すみません、すみません
  なんて、寝言を言ったりするの
  そしたら、逆立った頭を鎮めるように
  撫でてあげるわ
  だいじょうぶ
  だいじょうぶよって
  うまく鳴けたらいいのに
  せめて、夢の中くらい

  お別れのとき?
  もちろん、とっても哀しいわ
  だけど、運命には逆らえないもの
  きっと、ぐーんと胸を張って
  瑞々しい羽根を広げるんだわ
  そして誰かのもとへ
  幸せを届けに旅立つのよ
  私の瞳に鮮やかな瑠璃を残して
  ね



少女は
しばらく中空を泳いだあと
ふわりと着地して
なめらかに車椅子を転回させる









  あなた、カリブーみたいな
  優しい目をしているのね


自由詩 回遊する少女2 (ルリツグミ) Copyright 佐野権太 2006-09-01 18:06:01
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