歯軋り
松本 卓也

歯を食いしばる不快な音が
右脳の片隅に微かに聞こえる
何に憤ってるのだろうか
正体など掴めないまま

煮沸する心境が垣間見た証
怒りであるようで少し違う
哀しみに似ているけれど
疲労のほうが大きいのだから

額や背中に張り付いた
汗の数を数えなおす度に
焦点の無い視線を交わす人々を
見えないように睨み付け

お前達の心臓に言葉を突き立て
偽らざる劣情を晒し上げたい

呟いた独り言は軽々と
排気ガスに乗って雲に消えた
僕が見ている視線の向こう側と
誰もが見ている世界は違うのだ

誰しも歪んだ感性を誤魔化しつつ
特別でもない人生を過ごしながら
敗北と勝利を比べあうことでしか
自らを証明する術を持たないのだから

無縁を気取る底辺の住人たる僕の前で
その屈服した表情を曝けないでくれ
今朝の鏡で見たものよりも
遥かに醜悪な笑顔しか見えないのだから


自由詩 歯軋り Copyright 松本 卓也 2006-08-30 22:51:53
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