月夜の野良犬
服部 剛

日常の軌道をれて、
行く当ての無いバスに乗る。 

車窓に薄く映るもう一つの世界の中で、
駅周辺を流れる人々の葬列。 

葬列の流れる行き先に、渦巻いている濁った泥沼。 
やがてそこへ飲み込まれゆく、いくつもの純真な白いてのひら。 

バスが泥沼の傍らを横切ると、
いつの間に、道の消えた大地の先に
ただ 地平線と夕暮れる空があった。 

暮れかかる夜空の始まりに、浮かび上がる満月。 
荒涼とした大地に現れる、ほの白い光の道。 


( 誰も知らない遠い夜の部屋から 
( 月夜に響く唄が聞こえる  
( 薄い衣の天女が手招きをしている
 

いつの間に、この体は飢えた野良犬。 
ほの白い光の道を汚していく足跡のつらなり。

( 渇いた紅い舌、黄ばんだ牙、荒れた息

本能は、おもむくままに。地平線のひそむ深い闇へ 





自由詩 月夜の野良犬 Copyright 服部 剛 2006-08-29 20:42:23
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