降り来る言葉 XXIV
木立 悟




瞳のかたちの夜の食卓
ひとつの炎が揺れていて
他には何も置かれていない
椅子には誰も座っていない


波に斜めに刺さる輪があり
光の泡をこぼしている
あちこちにぽつりと灯るむらさき
遅れて曇にとどくむらさき


遠去かりつづける空の背に
ふたたび水が流れるとき
ひとつの響きを抱えたものが
自身のうつろに気づくとき


何もないところを奏でている
応えは指を過ぎてゆく
夜の白はやわらかな白
汚れたものだけが受け取れる白


音を聴こうとするものと
音を聴くまいとするもののあいだに
金と緑は流れつづけて
羽は不在の胸の苦しさ


土のにおいはそれだけで翼で
暦を深く切り取ってしまう
星と葉の描かれた紙の文字盤
暦のかけらを回す指さき


どこかへ向かう列とは別に
何かを待ちつづける列がある
門の前には水鳥の群れ
猫を背負った水鳥の群れ


さえずるものの実る弦
夜にうたい 夜になる
終わらぬ戦い 終わらぬ響き
たなびく音の朝がくる


曇のかけらが地にとどき
門は放たれ 鳥は猫を置いて飛び去る
めざめかけた小さなうた
金と緑に照らされるうた


巨きく遅くひろがる朝に
歩みの影が重なってゆく
炎の消えた食卓にも
翼と楽器と暦の上にも


針金を折るように窓をしめると
瞳はまだ外にいて
みなもとへ向かうものたちの
揺れる灯の列を見つめている















自由詩 降り来る言葉 XXIV Copyright 木立 悟 2006-08-29 13:30:46
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