*黒い大地*
かおる


遥か悠久の昔、空と海と陸がまだ混沌としていた頃
全ての命は気ままに泳いで飛んで
果てもない混沌を駆け回るのは楽しかった

亀はいつの時代も競争に駆り出される性分なのか
ある時、亀と鯨が
どちらがずっとじっとしていられるか
我慢比べをしたんだとさ
最近になって兎を負かす事ができた亀も
あの当時はまだまだあおかった
雨の薫りに鼻がむずむずして
思わずくしゃみ百連発で
のっそり起き上がり動いてしまった
そんな亀の慌てぶりにも一向に動じず
鯨はどっしり悠然とあるがままに動かず

魚らしさはすっかり影を潜め
京の都になる為か
小さな命が彼の上を飛んだり跳ねたりしても
シーンと静まり返ったまま
実は泳ぐのや飛ぶのが苦手な命が
端然とある鯨の上で休むようになり
そして、混沌は分かれていった
空と海の境目は時々昔のように曖昧だけど
陸は鯨の形に見えませんか

雨をたっぷり吸った黒い大地には
鯨の坊やが眠っている
ギラギラの太陽に
しらけていってしまいそうな大地を
守る為にじっと佇み
アップアップな日常で
干涸びちゃいそうな夢や想いに蓋をするように
悠々と

赤く燃えていく空の向こうから
かすかに
母の子守唄が
聴こえてくるでしょう

坊や、よゐこだ、ねんねしな
ほら、入道雲のおじさんが
おしめりを連れてやってくる
遠く雷鳴に混じってとうさまのうなり声
我慢比べをする坊やを楽しませたいと
鳥が歌い花々は咲き乱れ
緑深くなる頃には
未来もゆっくり泳ぎだすでしょう
それまでずっとおやすみ、坊や


自由詩 *黒い大地* Copyright かおる 2006-08-29 08:24:12
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