「 せっくす。 」
PULL.







せっくすの意味を知ったのは、
煙草を覚えた日だった。
せっくすの女が吸っていたのを、
もらってはじめて吸った。
だけどはじめてせっくすしたのは、
その日じゃなかった。

自分の手で、
するのを覚える前に、
せっくすは知っていたし、
せっくすの意味を知る前に、
せっくすしていた。

すぐに煙草は止めて、
酒を覚えた。
酒の飲めるところには、
女がついてきた。
飲み過ぎた。
血反吐で溺れ死にかけた。
最後まで酒に酔えなかったが、
だから飲み続けたのかもしれない。
いつか酔えるかもしれない、
と。
女にも溺れた。
女で何度も殺されかかったが、
やはり酔うことはなかった。

表情を覚えたのは、
まだ幼い頃。
笑った顔と笑っていない顔、
そのふたつしか表情を知らない。
これはただの容れ物。
いつも中身は冷たくて、
震えることも波打つことも、
知らない。

何人かと体を重ねて、
そのすべてと別れてきた。
相変わらず中身は冷たいまま、
ふりをするのを覚えた。
酔ったふりをするは、
とても悲しい。
容れ物を見る女の目には、
おれは映っていない。

求められるままに、
せっくすした。
いくつもの肌を知り、
いくつものせっくすを覚えた。
せっくすのもうひとつの意味を、
知らなかった。


はじめてせっくすしたい女は、
煙草の嫌いな女だった。
女はせっくすに、
もうひとつの意味がある。
そう教えてくれた。
もういない。

煙草を覚えるよりも早く、
きみを覚えたかった。












           了。



自由詩 「 せっくす。 」 Copyright PULL. 2006-08-28 07:46:58
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