虹、虹、雨、曇天、
岡部淳太郎

      ――Sに



よく見てみれば世界は逆に回っていた
老人は杖を失い 赤子は乳を失った
退化の兆しを感じ取って皿はふるえ
投げられた石は空中に留まった

世界の最初は奇蹟だった
すべてがあるべき場所に収まっていたのだが
いまや すべてはただ乱雑に散らばっていた
世界はただの遺蹟 登録された資産に過ぎなかった

架けられる橋 そして虹 また虹
多くの人や河童や繊毛虫がその上を歩いたが
それらの虹や橋は現われては消え
また現われるということを繰り返した

日々はいつも平穏で だがたしかに揺れていた
俺は逆回りに回って眼を回しながら彼女に近づいてゆく
頭の中だって回るのだ ほら
彼女のために俺の脳髄はぐるぐると回っている

すべてがフェイクであり
ラヴもライクもいっしょくたになって
ただ左回りの渦の中に溶けてしまっている
そのことに誰もが気づいてしまった

気づいてしまったから誰もが急ぐのだ
エスカレーターを逆走して
エスカルゴの殻の中に
そっと自らを収めに行くのだ

そして雨が降ってきた それから雲が空を覆った
そしてその後のことはどんな預言者にも
いかなる神の代弁者にもわからなかった
ただ雨の証しとして路面が濡れているのが確かめられるだけだった

すべてがノーマルでありレアメタルであり
何もかもがわけのわからないまま走らされていた
俺はただの迷子にすぎないのだろう
彼女以外の すべての人と同じく

俺は星を見てしまった
自らの頭上に浮かぶ星を見つけてしまった
とたんに虹がやって来てすぐに消え
雨が降り病んだ後 曇天が広がってしまった

虹、虹、雨、曇天、
それから その先はどうなる?
叫びたい
ただ彼女の美しさの方へと
ああ!



(二〇〇六年六月)


未詩・独白 虹、虹、雨、曇天、 Copyright 岡部淳太郎 2006-08-25 19:07:11
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