ポエティック・メランコリー・シンドローム
岡部淳太郎

      ――Sに



すべての結果に原因があり
物事は (心の中の事象でさえも)
そのまっすぐな道を歩いているだけであった

だが

垂直に落ちる滝のようにひとつの感情が
私の元へと集まってきて
凝縮され 形づくられ
それは私の指向をあなたの元へと送らせた



ポエティック・メランコリー・シンドローム
  ふたたび あなたのせいで
    私はこの世界が詩であることを知る



世界は (あるいは世間は)
そこに生息する人びとの
すべての感情や思惑を内包して
今日も日毎に太りつつある

だが

この大きな入れ物は
それらのすべてにひとつずつ従うほど
物わかりがよくはない

平行する列の流れの中で
人びとは今日も
何事かをわかったような顔をして歩いているが
(本当は) 何もわかってはいないのだ

わからないまま
生かされているだけなのだ
愛だとか 法だとか
それらのさまざまなしがらみの何もかもを
誰も (本当に) わかってはいないのだ



ポエティック・メランコリー・シンドローム
  治療することの出来ない慢性的な症状に
    私は苦しんでいる
    (そう すべてあなたのせいで)



蝶が飛び 花が咲く季節になりましたねと
時を背後に置いてきた老人がつぶやく
彼等のかたわらではやくも
時は次の季節を演出するための準備に入っている

だが

突き刺すようないたみと
地を這うような憂鬱に
支配されて日々を過ごす者にとっては
すべての季節はただ無常であり
非情でもある



ポエティック・メランコリー・シンドローム
  さらなる追い打ちをかけるように
    あなたにまつわるすべての観念が
    私を捉えようとしている



咎を負い
扉を潜ってゆくことも出来ず
私は血の中に倒れ伏したまま
持てる限りすべての感情を
あなたに向かって集中させる

(そのことが)

自らをますます追いつめようとしていることを
鈍い頭で思いながら
私はひとつの出来損ないの詩
そのものとなる

だが

声のない
声にならない
感情を垂直に上らせようとする者は
いまもここで
金網に指を這わせながら
黙ったままでいる



ポエティック・メランコリー・シンドローム
  ふたたび あなたのせいで
    私は眼を開かされる
    (やはりこの世界もまた)
    (ひとつの出来損ないの詩に過ぎないと)




ひとつの恋情が夢の中で合唱する
明日もまた私は
あなたのために衰えてゆくのだ



(二〇〇六年六月)


未詩・独白 ポエティック・メランコリー・シンドローム Copyright 岡部淳太郎 2006-08-21 21:15:27
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