毬栗の毬ばかりなる里を出る
杉菜 晃


 夜になると風が出て
 毬栗いがぐりは落ちてゐた
 次々と
 加速されて
 硬く冷たい実が
 ぱらぱらといふよりは
 すぽすぽと黒土にはまりこむやうに
 降つてゐた
 流星のやうに光つて
 夜の底に降つてゐた
   
 私はそれを胸詰まる思ひで
 聴いてゐただらう      
 朝 風も止み 
 日がのぼつて

 出掛けてみると
 栗の実がない
 夜を通して降つてゐた実が
 一個とてない

 黒土にはまつたのかも知れないと
 永く待つたが
 青芽など一向に出てこなかつた

 そこで私は
 詩のタイトルとした
 一句を捻って
 古里を後にしたのである
 つまり
 毬栗のいがばかりなる里を出た
 のであつた
        


自由詩 毬栗の毬ばかりなる里を出る Copyright 杉菜 晃 2006-08-21 18:00:12
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