から
夕凪ここあ

放課後には、
音楽室から聴こえる
ソプラノが
一日の中で一番
しっくりはまる少女、何処か夕暮れに似た、

朝には
誰にも触れられていない、
まだチョークの匂いすらしない教室でひとり
「あ」の発音を真似てみる。
隅の方でカーテンが揺れて、
また戻る、

「あ」と呟けば、
あぶくのように弾けてしまう、夏。
透明だから輪郭の薄い少女の声、少女も
溶け出してしまいそうに、
理科室のビーカーの底、沈殿しない 決して。

小さく夕暮れる少女、
胸のリボンを解くことがこんなにも
こわいことだとは知らなかった十七歳。
小さく夕暮れる少女、
夕暮れと夜の間のほんの一瞬の隙を
知りたかった十七歳。


放課後には、
音楽室から聴こえるソプラノ
揺れて、
一日の中で一番しっくり少女にはまる音
せかいと切り離されたように、揺れる、

少女の輪郭が溶け出して、やがて
教科書を朗読する透明な声が。
少女の、
「あ」の声は透明すぎる
から。



自由詩 から Copyright 夕凪ここあ 2006-08-20 23:04:30
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