夜には 月が
夕凪ここあ

夜が深くなった頃
静かな優しすぎる時間
窓の外では月が おやすみを呟いて
それでも声は透明で音すら存在しない
昨日見た夢の断片も もう忘れてしまった

読みかけの本を開いて
いつか千切れてしまった心に
溶け込むような言葉を探す
もう何年も昔から

ひとつきり 息を吐いて
栞を取り出せば
空の色のような薄いあお
だけどもそれは海の色だと
思いたかった少女だった頃
手を伸ばせば触れられるような

月は空で
昨日よりも少し欠けて
爪の先くらいには引っかかりそうな
形をしているのに 夜明けには消えてしまう淡い光

眠りにつきそうな
心地良い体の温かさを
まるで他人のように感じながら
私が私を抱いて
ひとつひとつ呼吸の度に
目覚めるときには忘れている今日や今日の夢のことを
ゆっくりと心からほどいていく


夜だけが
夜の間だけ優しすぎるくらいの温度で
寄り添ってくれる 一瞬のような時間
眠りにつくまで


自由詩 夜には 月が Copyright 夕凪ここあ 2006-08-18 21:34:53
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