空を飛ぶ夢
ajisai

月明かりの眩しい夜
少年は天使に出会った
天使は白いワンピースを着た少女で
淡い空色の瞳に純白の翼が生えていた

少年は天使に尋ねる
「どうして翼が生えているの。」
「神様のお使いをする為に翼はあるのよ。」
天使は優しく答える
「じゃあ僕も神様のお使いをする。」
少年は真っ直ぐに天使の目を見て言った
「生まれついての運命で決まっているの
 だから無理なのよ。」
天使は穏やかな口調で少年を諭した
「だから僕には翼もないし
 お空も飛べないの。」
「そう、仕方のないことなのよ」
天使は少年の両手を優しく握った
「いや、僕はきっとお空を飛んでみせるよ。」
少年は瞳を輝かせてきっぱりとそう言った
天使は戸惑い、困ったように苦笑した
それ以上かける言葉も見つからず
少年に祝福の祈りを捧げ、別れを告げると
月に向かって羽ばたいて行った
少年は天使の姿が見えなくなっても
ずっと夜空を見上げていた

それから数ヵ月後
ある満月の夜、天使は再び少年に出会う
少年は死神に導かれてやって来たのだ
天使は驚きのあまり声も出なかった
「凄いね、翼もないのに
 僕はお空を飛んできたよ。」
少年は天使に向かってお日様の様に笑う
「僕、翼を作って高いところから飛んだの
 ちょっとの間だったけど僕は風に包まれて
 空を羽ばたくことができたんだ。」
天使は哀しげな目で少年を見つめた
「なんて無茶なことを…。」
「ううん、僕少しだけど飛ぶことができた
 それは素晴らしくてとても素敵だったよ
 天使様が祝福をしてくれたおかげだよ。」
少年は後悔の様子もなく無邪気に微笑む
純粋に空を飛べたことを喜んでいるようだった
「そう、よかったわね。」
天使は薄く微笑むと
少年の手を引き天国へと向かった

少年のあまりにも純粋な心が眩しくて
天使はほろりと涙を零した
神様が人間という不完全な存在を
愛する気持ちが少し分かった気がする


自由詩 空を飛ぶ夢 Copyright ajisai 2006-08-15 14:04:36
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翼シリーズ