一．

なんだかね
スーパーに行ったんだ
この街は夏でも冷房とかあんまり無くて
でもそのスーパーにはあって
涼しくて
何買うわけでもないけどね
近くの中華料理屋の中国人たちがいつもどおり
エスカレーターのしたのテーブル
いつもと同じテーブルに陣取って
トランプしてる
みんな横縞のポロシャツ着ててね
あっちじゃあ流行ってんのかしら
ね
ここ来る前はね
家でね
新しく引っ越した家でね
窓からね
目の前の公園の木々を
見ててね
あれは白樺だと思うんだけど
巨大な白樺がたくさん上空で手をつないで
迷路のようでね
小さくなったおまえが
絡み合う枝の上を
ちょこちょこ走るんだ
紫のそのドレス
今週末のいとこの結婚式用に買ったドレス
下のほうへ濃くなってゆくグラデーションが
お漏らししたみたいで俺は嫌だって言ったドレス着てね
ほっぺた膨らませて
あああぶないよ
そこ危ないよ
スキップすんなよ
すべるよすべるなよ

風が
吹いてね


二．

がらがら崩れてきやがってもう
ベッドの端から
そんな泣くなら
もう全部いいよ
全部いいよ
信じられない
信じられない
おまえが
ほとんど
からっぽで
信じられない
おまえが
ほとんど
からっぽだなんて

おまえが歌ってるなんて信じられない
おまえが歌ってるなんて信じられない
あんたが歌ってるなんて信じらんないわ

(抱きしめて良いよ
俺も抱きしめるから
この　今日の　どこか変で
でもそれがどこなのか
それが分らないのが
恥ずかしいけど

もういいよ）


三．

なんだか悲しくってね
スーパーに行ったんだ
果物売り場でレモン見て
手にとって
やめて
ミルクコーナーに向かったんだ
普段ミルク飲まないのにね
酒もたくさん置いてるのにね
それで結局ミルク
かご入れて
それだけでいいのにあと
生ハムとかチーズとか
なぜか鰯のトマト煮の缶詰買って
それでエスカレーター駆け上がったら
さあ

　　　風が
　 吹いてね

白樺の上で
おまえは少しだけ踏ん張って
落ちて
俺の隣で
目覚める