地球が滅んでしまうまでにやること
美味

あと十分で地球が滅びます。

いつものように何気なく見ていた目覚ましTVで
総理大臣が重々しい口調でそんなことを言った
朝。

あと十分だってよ、どうする?
母さんは僕を見ながら、くひひと笑う
一昨日入れたばかりの銀歯が光っている

少し焦げ目に焼けているトーストも
熱いと温いの間の絶妙なコーヒーも
夏の暑さで早くも、うな垂れている犬のカルメンも
なに一つとして、変わらないというのに
あと十分で地球が滅びるのだそうだ

テレビでは仰々しくカウントダウンが取られている
大晦日にしか活躍しないと思っていたタイマーが
嬉しそうに時間を刻んでいく
アナウンサーが地球の歴史なんぞを語っている

何も知らない父さんがリビングにやってくる
無口な父さんはテレビを一瞥しただけで
黙ってトーストを食べ始めた
風邪を引いていようが、台風だろうが
一日も休まず会社に通う父さんは
地球が滅びるくらいで会社を休んだりはしないだろう


あんた、やりのこしたことないの?
ふいに母さんに尋ねられる

やりのこしたことかぁ

何百時間と費やしたネットゲーム
とか
続きが気になる漫画も読みたいし
あの映画も見たいし
今晩やるテレビ番組も見たいなぁ

やだねぇ、浮いた話の一つも出ないのかい
母さんは詰まらなそうに顔をしかめる

テレビで最期を迎える最新スポット
がやっている
こんな時にもメディアって大変だなぁと感心してしまう

母さんがそれを見ながら
日本沈没の前に地球が滅びるなんて世も末だね
なんていうもんだから
世も末なんだからあたりまえだろう
と父さんに突っ込まれていた


僕はカルメンに餌をやりに
外に出た
ダルそうに尻尾を振るカルメン

カルメン、地球滅んじゃうんだってさ
くぅ〜ん
とても信じられないよな
くぅ〜ん
餌食うか?
ワンワン!
現金なやつ
ガツガツ
美味いか?
ワン!
一は英語で
ワン!
平和だな
わぉん
でも地球滅んじゃうんだって
わぉん
とても信じられないよな
わぉーん
餌、もっと食べるか?
ワンワン!
何だかお前は幸せそうだな
ワンワン!





自由詩 地球が滅んでしまうまでにやること Copyright 美味 2006-08-09 17:47:24
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