川をわたる
さち

電車に乗って 都内へ行く

それは
ときには嬉しいイベントであったり
ときには必要に迫られた用件であったり

車内では少し緊張している
エプロンではなく ネックレスをつけているから
サンダルではなく 靴を履いているから
そして
そんな私を見透かされないように
車窓を流れる景色に 視線をやっている

どこにでもある家並み
駅前の雑居ビル群
看板の文字を読んだり
木々の緑を眺めたり

電車のゴトンゴトン が
ガコンガコン ガコンガコン に変わって
鉄橋の上を走る
斜めに組まれた鉄骨の間
濁った水でも日の光にキラキラしてる
川面が見える

川をわたれば
また
どこにでもある家並み
駅前の雑居ビル群
それでも
右手がネックレスを なぞってたりする
肩から掛けたバッグを 掛けなおしたりする
降りる駅が近づけば
妙にそわそわしたりする



用件が終わって
帰りの電車に乗る
履きなれない靴で 足が痛い
ネックレスは 体温と同化してきているけれど
バッグを掛けたほうの肩が 凝っている

ガコンガコン ガコンガコン

川をわたる
さして思い入れのある川でもないけれど
深い息を吐いている

夕飯の献立を考えたりする
見るつもりだったTV番組のことを 思い出す
普段の流れに戻っていく

川をわたる
どこにでもある街並み
でも なんとなく馴染みのある街並み

電車を降りたら
知り合いに会うかもしれない
ネックレスなんかつけてどうしたの、って
言われるかもしれない
そしたら
ちょっとね、なんて言って
なんとなく笑ってしまうんだろう


自由詩 川をわたる Copyright さち 2006-08-09 10:39:36
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