しましま
夕凪ここあ

夜、眠る前には忘れることなく
絵本を開く少女
はお話の最後を一度も見たことないまま
眠りにつく、早く明日が来ればいいのに、と。

空の色によく似たワンピース
がお気に入りの少女
裾を花びらのように翻して
駆けていく、夏。

ラムネが飲みたい、と
少女の手には少しだけ大きな瓶
ひんやりとして涼しげな炭酸
が少女はあまり得意ではなかったけれど、
びーだまが欲しいからと
少女は覗き込む
瓶の向こう側は少し歪んで。

少女が昨夜
細い指に結んだ橙の金魚と想いを
小さな器にそっと放した
尾をなびかせて泳ぐ、音も無く
明け方には泡も消えて
空になった器
夕焼けに溶けていってしまったのね、
と無邪気な少女は。

いつからか夜には
絵本を開かなくなった少女は
更けていく夜をじっと見つめる
最後のページを捲ることもなく
本棚にしまわれた絵本のことなど
忘れてしまった少女は
いつ夜が明けるのかも
もう知ってしまった。

少女がまだ少女だった頃に
透明な瞳に映る
夕焼けと薄闇の空の段々を
ただ綺麗だと
思っていた、あれは夏の日。

陽炎に揺らいでしまって
もう見えない、少女の夏の日。



自由詩 しましま Copyright 夕凪ここあ 2006-08-08 23:47:51
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