my beautiful
安部行人

おれたちは
美しいとさえ言えるほどの偶然の果てに出会って
互いが失ってきたものを取り戻そうとしている
時には痛みをおぼえるほどの激しさで


おれたちは震えていた
互いの眼を覗きこみながら
おれたちの唇は震えていた
重ねられたままの
おれたちの指は震えていた
固く冷たい床のうえに崩れ落ちて
互いの尾に噛みつく二匹の蛇のように絡みあって
おれたちは震えていた
おれたちの心は震えていた


おれたちはひとつのベッドに眠る
同じ傷口から産まれでた似ていない双子
痛みとともに惹かれあう
割れた鏡のかけら


おれたちは互いに血を流し
その滴に舌を這わせ
傷口を覗きこみながら
眠るような安らぎのなかにいた


おれたちの傷がふさがる日は来ない
おれたちはおれたちの傷とともに生きる


おれたちの傷から
かわいた白い色の花が咲くことがあったら
その時は手をつないで
微笑みながら涙を流そう


おれは震える唇にその言葉をのせる
おそれのためにかすれる声でささやく
おれの美しいひと、きみに向けて


――愛している、おやすみ。


自由詩 my beautiful Copyright 安部行人 2006-08-07 02:28:19
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