忘却のノスタルジア
藤原有絵

陽炎たつ錆色の線路に沿って
かつて遠くの街まで貨物を運んだという
歴史の残痕を夏草に問う

どうして忘れられなくてはいけないの

なんて
誰にもいえない
答えられない


小さな想いは
千切れそうな痛みを含んで
熱をもって拡散する


ここへ
叶えない願いを置きに来た
一つ一つを口にだして

挨拶きるように吐き出しては
伝う雫ぼたぼたと
枕木に薄いしみを作って消えていく


声はどんどん大きくなって
歩みはみるみる乏しくなり

いつの間にか
両の手で顔を覆っていた私


この想いをくださった方
あなたに返す事もできず

私は忘却のつくる澱に
耐えきれず
重たげな熱でもって

蒼い土に埋めてしまう事にしたのですよ


夏草は優しく繁り
いつか全ては忘却の彼方

夏を幾度も繰り返し

いつか枕木が朽ちるまで
待つ事がなくとも

微かな記憶と化すでしょう

痛みと熱と優しさで
古き良き
私の一部と成るでしょう




自由詩 忘却のノスタルジア Copyright 藤原有絵 2006-08-06 01:04:50
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