【短歌祭参加作品】こちら冷夏
容子
冷えきった繋いだ手と手を温泉で去年の炎暑を取り戻そうとす
耳元で優しく君が囁いたあの夏のさよならを海で泳がす
夢うつつ瞬時に散りゆく白昼夢、儚く消える思い出花火
ねえ、先生。わたしが熨斗紙纏いつけお中元なら受け取ってくれる?
炎天の下で説かれた『愛してる』冷凍都市で今年も解凍
15歳、髪を結い上げ覚悟する蚊帳から手招く母親の真似
はぐれ人流星群に攫われた君の影追い今年も探す
夕立と汗にずぶ濡れ制服の透けたブラウス俯いた君
襟元を乱し帯締め下駄鳴らし別れ人との最後の宿題
口つぐみ視線を逸らし喉鳴らす、ちりんと風鈴心音隠す
寝乱れて汗ばむ半裸ぬぐう情、情事の跡から別れ路辿る
機が熟し、ぬらりと肢体を抜ける赤わたしの金魚すくいを君が
未だ尚別れた生き人想い生き、抜け殻のわたし蝉鳴く墓地へ
今し方お腹に隠したすいかがごろり大きく落ちる甘い夕焼け
背を向ける君に悟られまいと声張り上げ「さよなら」扇風機越しに
ひと夏の身体の汚れ清めよとプールの隅の消毒槽へ
「応答せよ、こちら冷夏」とそこここに咲き匂うは青白い夏