パサヤ・ドニバネには道が一本きりしかない
水在らあらあ
(でっかいのが、死んだ。)
風殺すようないかり肩に丸刈りの白髪頭乗せて来るのは あれは
ロブス 漁師で 工房の隣の教会の管理人だ
逆光でも分かる お調子者の いつものいたずらな笑顔が ない
―よう。
―やあ。
過ぎる。過ぎるか。そうか、そうだよな、
(でっかいのが、死んだ。)
(知ってらあ、ちくしょう)
大工仲間のゴルカから 朝一番に聞いた
ホセが 死んだって 心臓麻痺だって
いつも明るかったあの巨漢が
港の水向けて
ライフルぶっ放してたあいつが
試し撃ちだって 大笑いしながら
俺たちの小船の真横打ちやがった
あいつが
弁当食べにいつもの堤防まで 歩く ボリーと
村中が しけってるぜ なあ ボリー お前も 元気ないじゃないか
いつもの魚屋の角っこにも、おしっこしないじゃないか…。 ほら ボリー、
走ろう、ほらっ、行くよ、ボリー…。
今日は一緒に食おうな、おれの弁当、ひよこ豆とチョリソ煮込んだのだから、
チョリソは、全部やるよ…。
―よお。
―やあ。
イナ、イナシオ。この村の便利屋だ。なんて面だ。なんか噛み潰したみたいだ。
こめかみの傷跡が泣いてるみたいだ。
ああ、マヌエルだ。霧雨全部吸い込みながら来るのはあれは
マヌエル。もう退職寸前の漁師、こんな日でも葉巻は咥えているんだ
―よおー。
―やあ。
―なに。
―いや、飯。
―風邪引くぞう。
―平気だよおれ、横浜出身だから。
―けっ。言ってらあ。どこだそのヨコハマって
―だからあ…
ああ、あの角の店に今入ってったのはロシータだ
この村の最年長のおばあちゃん。あっ、みんないるんだ、
あのみせに、ホセのおばさんも、
走れっ
走れ走れ走れああ、なあ、ボリー、お前にもいつでも
優しかったよなあホセはさあ、
実はさあボリー、
お前に言ってもわかんないかもしれないけど
俺にとってあのホセは子供の頃に見ていた漫画の
ガキ大将にもうすごく似ててさあ
ジャイアンって言うんだけど
もうそっくりで
だってそっくりでその上
あいついっつも母親のオムレツのことばっか言ってただろ
もう母ちゃんのオムレツが一番だって
それが俺には漫画みたいで面白くてなんだかあったかくて
なあボリーお前あのおばさん
ホセのおばさん
お前も知ってるだろよく工房にも
ひどく濃い味の鱈のオムレツ持ってきてくれただろ
お前も食べただろ
その後お前ずっと水飲んでただろう…
そうだよボリーここの人は
人間として正しい気がするんだよ
お前が犬なのが当然のように
ここの人はまぎれもなく人間なんだ
それはこの村に
道が一本しかないのが
それが大事なんじゃあないか
でも
あのおばさんには
俺今日はあえないな
なんていったら良いか
俺のバスク語じゃあさあ…
だからほら、ボリー
今日はもう少し先まで行こう
海荒れてるけど
付き合ってくれよ
チョリソは
全部やるから