【短歌祭参加作品】半透明の夏
望月 ゆき
水深5キロメートルの恋に落ち プールサイドで墜落する午後
砂浜の午睡からうつら目を覚まし すいかの縞の波に溺れる
ピーラーで削がれ半裸になりしきみ 水にさらせば透きとおる夏
古いボートの温泉でさぐりあう 指のあいだの砂とあしたと
横顔とはこばれてきた炭酸水 青い退屈 涙するきみ
水玉模様の約束忘れない 手をふる空の下の夕立
逆光のヤシの葉眺む夕暮れに 過ぎ去りし日のそらみみ花火
白熱灯のしたを泳いで金魚すくい じっとしているからつかまえて
スカートの砂落とす手で風をよけ 流星群と見まごう髪の
ノックの音が嫌いだと蚊帳のなか 足音だけを待つ不眠症
砂利に染みゆく水の先 今もなお海底墓地で眠りしきみよ
赤々と標されてゆく地図をよむ 冷凍都市を泳ぐ金魚の
おととしのワークブックの1ページ 残しつづけるという宿題
半透明の夏が消えて残るもの 氷の音の風鈴ひとつ