梅雨、列車は停滞する
美味

この眠れない夜
少し開いた窓の隙間から
カーテンの裾を揺らすのは
頬を掠めるひやりとした夜風
紛れ込んできた露の雨音に
畳の匂いが、一層、濃くなる

月があるわけでもないのに
外は仄かに暗く
雨の足跡が雲に映り
私は密かに訪れる列車を待つ

たわわに実った梅の瑞々しい果肉が
どこまでも途絶えの無い線路に
成熟した香気を晒して
薄紅色の花を思わせる

しと、しと、と
控えめな汽笛が鳴り止まない
列車はただ、じっと
乗客を待って、留まっている
いつか貴方の乗った列車は
知らない誰かを待って
静かな夜を泣いている


空が薄らと白み
小鳥の囁きが聴こえるころ
私は静かに目を覚ました
この気だるい身体は
既に列車がいなくなってしまったことに
気づいている

私はただの一度も濡れることがないまま
夏が光を漏らしている







自由詩 梅雨、列車は停滞する Copyright 美味 2006-07-22 21:02:21
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