森の浪漫
前田ふむふむ

戯れる森の雫が、
ひとびとの拍手のなかで、静かに横たわる。
あなたの流れる姿が、
森の節目に、厳かに薫り立つ。

標高をあげている森は、
巧みに感度を敷きつめて、
わずかに彩色を動かしながら、
方位をなめらかに、下流に滑りだす。
森を固める青い循環は、
とどまる思想を持たず、流れつづけて、
繰り返し空の裾野を塗り替えてゆく。

囀る鳥は、ひときわ、喉をあたためて
点々と束ねられた樹木の奥行きを、
広げつづける、
青々とした音階の厚みを増して。

小さく隆起する風を掻き上げる、
弦楽四重奏の喜びを、簡素な教会の窓に、
涼しく馴染ませて、
あなたは、眩しい細い肩を素直におろして、
添削された過去を回想する。
湿潤で、やさしい微動を蓄えた眼差しを、
斜めに伏せて、
ひとたび、福音を味わいながら、
時のつづきは、走り出す。――、
満ち足りた森は、輝きの扉を踏み出そうと、
赤い汗が高まり、つま先を強めて、
あなたを、祭壇の前に敷かれた布にいざなう。
白いいのちは、さらに白い衣装を高貴に
染め上げて、
あなたのみずいろの肌のなかに溶けていく。

速度を持たない時間が、夏の草々を、
静かに踏みしめて、
森の浪漫は、ふかく昂ぶる夢を、
みどりの胸に包み込む。
森が祈りをあげる祝福のときに。


自由詩 森の浪漫 Copyright 前田ふむふむ 2006-07-20 00:08:26
notebook Home