陶器
アンテ


まっ白い顔の人たちが
次々に現れては
好き勝手な方向に歩き去ってしまいます
しゃべり声と足音が混ざり合って
波のように強弱をくり返しながら
ホールを満たしています
柱にもたれて
目まぐるしい流れを見ていると
気が変になりそうです
人々はみな淡々と歩きながら
魚のように目を見開いています
真っ白い顔はつるんとして陶器のようです
だれもわたしがいることなど気にも止めません
ここはどこなのだろう
わたしは顔をふせて息をひそめます
身体の末端から順になにも感じなくなります
このまま跡形もなく消えて
わたしも陶器みたいな顔になるのだろうか
気がつくと
あれだけ広場を埋めつくしていた人たちが
どこにも見当たりません
目をこらすと
遠くに立っている柱に凭れて
ぽつんと立っている人がいます
顔立ちもわからないくらい離れているのに
どんな表情をしているのか
手に取るように思い描けます
とても懐かしいのに
名前も声も思い出せません
あの人なら
ここがどこなのかを教えてくれるかもしれない
夢中で駆け出します
するとどこからともなく
たくさんの人々が現れて
広場をあっという間に埋めつくします
しゃべり声と足音がまざりあって
頭のなかまで入り込んできます
人混みを必死にかき分けて
やっとのことであの人がいた場所に辿り着いても
どこにも見当たりません
息を整えながら
ホールを行き交う人たちを眺めていると
気持ちが静まります
だれもみな顔が陶器のようにまっ白で
目まぐるしい流れを見ていると
気が変になってしまいそうで
柱にもたれて
顔をふせてじっと息をひそめます
ここはどこなのだろう
どれだけ考えても
いっこうに思い出せません





自由詩 陶器 Copyright アンテ 2004-02-29 00:23:24
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