転校生
光冨郁也

引越をした日は、
青空だった。
近所の空き地の、
壁に、ボールをぶつけ、
グローブで受けとる。
ひとりで遊ぶわたしに、
アキラとリョウが、
笑みを浮かべ、声をかけてきた。

初登校の日、
授業が終わり、
放課後になる。
わたしは、
クラスの男子たちに呼ばれ、
体育館の横で、
列をつくって、
ドッチボールを投げ込まれた。
一人、二人目のボールは、
受けとった。
五人、六人目の、
ボールは、足にあたり、
指にあたり、
転がった。
つき指をして、うずくまり、
わたしは唇をかむ。
群がる同級生たちの、足しか見えない。

わたしは、壁に向かって、
ボールを投げつづけた。
白いボールが、音をたてて、
転がり、グローブに収まる。
近づいてくる、
アキラとリョウの、
三人で空気銃をもって、
林にでかけ、
駆けまわりながら、
夕方までうちあう。

雪の残る林の中、
三人で、貯水池に行き、
空に向け、ひきがねをひく。

リョウの父が亡くなり、
制服のまま、
通夜にアキラとでかけた。
顔もよく見えない夜、
引越をしていったリョウの、
言葉は暗がりに消えていく。

わたしは、白いネクタイをして、
何年もあっていなかった、
旧友の、
披露宴にでかけていた。
ビールを、つぎにくる、
友人の知り合いに、
愛想笑いを浮かべ、
少ない言葉を交わしながら、
席にだされた、料理を、口に運び、
新郎に拍手した。

わたしは、心の中で、
壁に向かって、
ボールを投げる。





自由詩 転校生 Copyright 光冨郁也 2006-07-13 20:45:45
notebook Home 戻る