けだものと子(火の地)
木立 悟




ふたつの火の間に
煙は消える
いとおしさ
うなづく いとおしさ
風のない日の
指をすぎるいとおしさ


見るまに変わりゆくものの
とどまらぬ今をたしかめるように
せわしくせわしく触れつづける手
すがたを信じ 裏切られ
それでもすがたを追いつづける手


まぶたを閉じてなおまぶしく
いさかいに降りそそぐもの
いさめもせずいぶかしみもせず
ただまぶたについた泥をはらい
土に落ち 消えゆくもの


水滴が
話しつづけている
ひとりの子が
うたいつづけている
縦と横
右と左の共鳴が
接することなく重なりつづけ
雲を薄明かりに分けてゆく


願いが
閉じたまぶたにとどく
遠く 近く
高さと時間は苦く 痛い
いのちは焼け
煙はたなびき
水は生まれ
手のひらに満ちる
空を映し
手のひらに満ちる


履きものを脱ぎ
やわらかさの前へとすすみ出るとき
子のまぶたはほんのわずかに
薄く淡くひらかれてゆく
けだものが
子の手のひらに口を寄せ
朝陽に染まる水を飲む
夕陽に染まる水を飲む












自由詩 けだものと子(火の地) Copyright 木立 悟 2006-07-13 13:43:08
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