世界で一番小さな海
プル式

鳥は空に向かい飛んでいるのだろうか
もしかすると本当は
空などでは無いのではないだろうか

では何処に

魚は海の中で生きていけるのだろうか
もしかすると本当は
海の中では生きられないのではないだろうか

では何故に

私は人の世界で呼吸が出来ているのだろうか
もしかすると本当は
私は人などではないのではないだろうか

あぁそう思うと
私の中で血が沸きたち
まるで血管の中から

あぁ
頭の中で虫の鼓動が聞こえます
まるでいざるようにずざりずざりと

私は虫になど成りたくない
私は人で有りたいのだ
這いずる様に舐めるように

あぁ
それだのにそれだのに私は
まるで羽化する様にあちこちが軋み

あぁ
背中の中で何かが蠢くようです
まるで今にもあふれ出さんと

嫌だ

嫌だ嫌だ

あぁ私は
人でしょうか
まだ私は
人で有りましょうか

黒い凝りが身を焼くようです
薬用の消毒液の中に浸ったように
細胞の一つ一つが溶け出して
私の中でかたちを変えていきます

見えますでしょうか
見えますでしょうか
私はまだ

あぁ
言葉が浮かびません
言葉すら

あぁ
私は何に成るのでしょうか
どうぞお願いです
少しばかりの哀れみでもって
私のこの触角のように伸びる

どうかそれ以上
いえ
どうぞ後一歩こちらに
そう
もう一足こちらに

あぁあなたは
良い匂いがします
その髪に触れても良いでしょうか
あぁあなたの

私は人の世界で
呼吸が出来ているのでしょうか

魚は海の中で
何処に向かうのでしょうか

鳥は空の中で
何故に声高に叫ぶのでしょうか

私はまだ
人で有りましょうか


自由詩 世界で一番小さな海 Copyright プル式 2006-07-13 01:32:27
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