【短歌祭参加作品】あしたも夏でありますように
本木はじめ
かつていた冷凍都市を思い出すような小説書いている初夏
再放送されてる温泉番組を観ているぼくを見ているかか氏
転校生だったあの子は元気かなどおんどおんと胸打つ花火
海岸で貝の欠片をひろうひと二度と消えない足あと胸に
絶好の秘密基地だとはしゃぐ子ら蚊取り線香工場跡地
美はそして短いほどに愛おしい流星群の群も孤独で
お中元届けるべきかこの青い海へと飛び込むべきか八月
どれだけの宿題ぼくは溜め込んできたのか未だにわからない夏
すくわれず川へと流す赤い花、金魚すくいのおじさんと犬
扇風機廃品置き場に捨てられて風化してゆく八月の午後
水のないプールの底に寝転んだ僕の瞳を覗き込む空
田んぼからはみだしている左あし遠いどこかに夕立の降る
彫刻家死して真夏の青年と永久に呼ばるる半裸の彫像
売れ残る無数のすいか店頭でどんな詩よりもより詩を秘めて
大雨の墓地で郵便配達夫むぎわら帽子を乾かしている
サマードレス闇のむこうへ脱ぎ捨てて蚊帳の中へと入る裸で
青よりも少年少女は水色の海を求めて難破する夏
「エンドれすサマーもおわり」だってほら、線香花火のような太陽
軒下へ無数の風鈴ぶら下げてあしたも夏でありますように