ミタクラヤシン
山崎 風雅

 ミタクラヤシン
 
 ネイティブアメリカンの挨拶だ
 意味は君と私は同じルールの中で
 生きている仲間同士なんだよ
 仲良くしようと言う意味だ

 この言葉は人にも言うし
 植物、動物、天体にも言う言葉だ

 ネイティブアメリカンは
 祈りの種族とも言われている
 彼らは文字を持たず、
 歴史は言葉で伝えられている
 言葉を神聖なものとして
 口にする言葉に責任をもつ

 冬の寒い日、暖炉の前で老人が
 子供や孫に言い伝えられた物語を
 何度も何度も言い聞かせる

 インディアン、嘘つかないは
 本当のことである
 それだけインディアンは
 言葉を大事にしている

 生きている行為そのものが
 神聖な祈りであり
 日常の行為までもが祈りである

 僕がアメリカに行った時
 たまたまネイティブに親しい尼さんに
 お世話になったこともあり
 何人かのネイティブの人達に会った

 現代では昔のように藁葺きの
 テント暮らしということはないが
 共通していたのは
 その言葉の力強さだ

 スウェットロッジという儀式がある
 それはテントに火で熱した石を
 いくつか放りこみ
 水をかけてサウナ状にした状態で
 少なくて3、4人、
 多くて7、8人ぐらいが
 この世にある全てのことに
 感謝の言葉を唱える祈りの儀式だ

 むし暑さは日本で入るサウナ以上で
 その中でみんなが祈りを終えるまで
 一人づつ祈る

 僕はあまりの苦しさに
 「インポッシブル」と言って
 飛び出そうとしたが止められた
 神聖な儀式を途中で止めるわけには
 いかないのだ
 我慢して僕はなんとか最後まで
 テントの中にいた

 外にでて茹でタコのようになった身体を
 外気にさらすととても気分がよかった

 この儀式はそれで終わりではない
 最後にみんなでパイプをまわして
 タバコを吸うのだ
 
 ネイティブは僕にこの煙は
 天に上がっている
 天にはグレートスピリッツがいる
 この煙はグレートスピリッツに
 つながっている
 それでお前は
 天とつながることができるのだ
 信じるか?
 と言われた、もちろん英語だが
 瞳を合わせその言葉を聞いた僕は
 心の底からそれを信じられた
 自然に
 「アイ ビリーブ…」と口にしていた

 大自然の中で行われたこの儀式
 テントは母親の子宮を意味し
 再生の儀式でもあるのだ

 僕はそのとき精神病、
 つまりうつ病の療養のために
 アメリカ行きを勧められて行っていた
 お世話になったお寺の手伝いでしていた
 皿洗いさえ満足にできない状態だった

 お寺の尼さん、訪ねてくる
 アメリカ人、ネイティブアメリカン
 そんな人達に囲まれて服用していた薬も
 やめて
 どんどん生命力が湧いてきた
 
 スウェットロッジも
 その中で誘われて行った

 やがて尼さんは僕に走ることを勧めた
 嫌だったがお寺の手伝いをするより
 マシだと思い
 5マイル、つまり約8キロを
 大自然の中を走った
 
 最初は走りきれなくて途中から歩いた
 でも、新鮮な空気、鮮やかな緑、
 生命力に満ち満ちた中で
 走ることが喜びに変った
 
 焦点の合わないような視線は鋭く、
 澄んでいった
 身体中に力がみなぎり、
 薬を止めた副作用もなくなった

 その間にもたくさんのアメリカ人、
 同じく日本から来た人に
 会って、僕の精神は正常に戻っていった

 お皿洗いやトイレ掃除、お風呂掃除、
 お寺の建築
 お手伝いは僕にとって苦痛だったが、
 尼さんがお祈りをしていると
 思ってやってごらんなさい
 と言ってアドバイスをしてくれたのが
 きっかけで苦痛でなくなった

 走ることもお祈りだ
 そう思うといっそう走るのが
 楽しくなった

 大地に汗を流して捧げるのだ
 一走りするごとにグレートスピリッツに
 近づくことが出来る

 きっちり3ヶ月の滞在を終えて
 僕は日本にたくさんの思い出とともに帰ってきた

 書けばきりのないほどの思い出だ

 何故今ごろこんなことを書こうと
 思い立ったかと言うと
 最近の日本の精神文化の
 衰退、荒廃を感じて
 僕達を取り巻く異常さに少しでも
 警鐘を鳴らしたくなったのだ

 今、僕はアメリカから帰ってきて
 元気に働いている内に
 うつを克服したと思ったら
 そう状態になって病院に放り込まれて
 また薬づけにされて
 働くことも出来なくなってしまっている
 日本では病んでしまうのだ

 いろんな精神の病にかかった人達とも
 会った
 
 そこで自然、動物、天体にまで
 仲良くしようと言う発想
 拝金主義の世の中で僕には
 一際輝くと思える言葉を紹介しようと
 思ったのだ

 アメリカ、精神病院での思い出話は
 ここで書く何倍もの量がある
 それはまた気が向いたときに
 書きたいと思う

 それでは皆さん

 ミタクラヤシン




散文(批評随筆小説等) ミタクラヤシン Copyright 山崎 風雅 2006-07-03 01:40:41
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