最初に
たもつ



バスに小川が乗ってきた
どこにも流れることのできない小川は
だらしなく床に広がった
立っている人は足を濡らした
座っている人は足を濡らさないように
座席の上に膝を抱えた
大学病院
駅入口
学園前
次々と乗客は降り
小川だけが終点まで乗った
終点は春の野原だった
降りた小川は春の野原を流れた
バスは一匹の魚になると
水の流れにとび込み
運転手だけが後に残された
やがて運転手は製紙工場で働く女性と結婚し
わたしは産声を発した
わたしがもの心ついて
最初に手を振った人だった





自由詩 最初に Copyright たもつ 2006-07-01 17:39:28
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