その光景 ☆
atsuchan69

コマ落としに明けてゆく 早まわしの夜
幽かに 白みはじめたハイウエーを
落下しつづける、
 光景。

轟音とともに 猛烈な勢いで迫る、
アスファルトの 帯

無表情な連続と相まって
一瞬のゆらぎ
スピードに弾きとばされる 影、

幻を 背後に、走り抜けるのは
朝 まだき空の薔薇色
フェンスの両側に拡がる 雑多な街、
記憶をよぎる 風はやさしく
ありきたりな死を仄めかせて 笑う

奈落に落ちてゆく
たかが百年にも満たない、粒子たち
絹糸のような軌跡を残しては 消え、
無限の深みへと 魅かれてゆく。

 前走するフェラーリが 突然、
テールに灯した
    鮮やかな 赤が滲んで
機械の馬は 嘶き、
儚い夢が 紙屑のようにつぶされてゆく 光景。

 朝の空気が、
死神を連れて すぐそこまでやって来ると、
 隠されていた深淵は
急に 親しみを伴って 見えだした。

 たった今、血の色を混ぜたばかりの 空の彼方
渇いた欲望が 夢のごとく過ぎ去り、
罪こそが いのちの証しだったことに気づく。

かつて嘲笑った筈の世界が ふたたび
眼の前に拡がっていた・・・・

永劫の闇にしずむ 粒子たち、それぞれが
果てしなく、淵をくだり
愛の記憶を いつまでも蘇らせ、
 かよわく 発光しつづける 光景。


自由詩 その光景 ☆ Copyright atsuchan69 2006-06-30 01:18:27
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