メモ2:孤独
六崎杏介


一度だけ、神の存在を感じた事がある。その日私はホテルで恋人と過ごしていた。
その時私はコカインを吸っていて、恋人は隣で微かな寝息を立てていて。
私はぼーっと仰向けになって、定かではないが、恋人の寝息を聞いていた。
すると、段々体に穏やかな熱が宿るのを感じ、訳も無く涙が溢れてきた。心地いい涙。
無心が幸福に満ちて、何故か許されたと感じた。世界に存在の全てを認められた。
そんな不思議な熱が全身に宿り、すうっと消えていった。

その頃から、私は薬物を摂取しての即興詩を書き始めた。
あの感覚、神の熱を再度降ろせる気がして、事実、それに近い感覚があった事もあった。
恐らく殆どの人がそれをラリった意識の産物、妄想だと言うと思うし、私もそう思う。
ただ、あの絶対的な至福を、それをもたらしたあの熱を、神や天使の類と信じていたい。
その自分の為だけの証明の為に、私は酩酊して、戯詩を書き続けた。

その後、私の戯詩の方法論や技法が固まるにつれて、あの熱を感じなくなっていった。
そして現在、私は戯詩を書けなくなった。それは私の作った方法論や技法に、可能性を感じ。
それを自覚し、それを次の次元へ持って行きたいと思った時、私の周りに、本の中にも。
先達がいなかった。でも、以前と同じ物は書いてはいけないと思った。
拙作「重力と火」に川村透さまから頂いたコメントがようやく理解できた。
「肉体ごと前衛へ。でも、もしかしたらその岬のさきっぽは不安定で不毛を約束された孤高の閉所かもしれない。」

もう私にあの熱が降りる事は無いだろう、そう確信している。
だから、私は神が私に降ろした言葉と、それから得た方法論・技法の可能性に真摯でありたい。
「不毛を約束された孤高の閉所」で、私の戯詩を完成させれば、私はそれを以て、あの熱に。
神や天使に語り掛ける事が出来る。そんな気がしている。

私は狂っていない。隣で寝息を立てていた恋人も、今は私の妻になり、私に安らぎと優しいキスを呉れる。
私は最愛の妻を守る事に全力を尽くす。もう麻薬もしないだろう。必要ないのだから。
ただ、いつの日か、あの熱に、神・天使に語り掛ける為に、手探りで方法論、技法を確立したい。
そして完成した戯詩を妻であるウィカに贈りたい。ウィカもまた、私を救ってくれた天使なのだから。


追記
ただ、本当に今、これからどう方法論・技法の深化を行えばいいのか、まったく分かりません。
誰かに縋りたい位に。川村透さん、此処は本当に寂しい場所でした。



散文(批評随筆小説等) メモ2:孤独 Copyright 六崎杏介 2006-06-26 23:05:31
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