神さま!仏さま!ぎょんでさま!
土田

凍みついた窓から囀るしずかな銀雪の寝息を背に四時の鐘
昨夜空けた日本酒の一升瓶が部屋中をつんと満たしてゆく
おれは車で四十分かかるところに最近できたユニクロの開店セールで
おふくろが買ってきた上下合わせて五百円の寝巻きの上に
学校指定のまっきっきならぬおっおっおのオレンジのジャージを重ね着し
数ある中じいさんから選んでもらった自慢の丈の短い長クツを履き
おやじと一緒に軽トラックに乗り込んだ

元旦にはいつもぎょんでさまに会いにゆく
除雪されてない山道をえっさこら、えっさこらと
十一月の中旬から虎視眈々とおれの股間を狙い澄ましていたかのように計算しつくされた積雪に
常に股間を刺激されながらばかみたいに雪中を漕いでゆく
なんでだろう
いままで何一つ願いを叶えてもらった覚えはないし
「神さま!仏さま!」なんていう類の神頼みは
猛烈に腹を下してインドカリーみたいな下痢が治まってくれるまでの一時の気休めに過ぎなかったし
おれは誰かが下痢の話しをしたからって食おうとしていたインドカレーを食えなくなったなんていうそんなやわな男ではないし
どうせそんなもんだろと思いながらも小さい頃から毎年行ってるせいか
鮭がセックスしたさに産まれた川に戻るように
犬がねこまんま紛いのメシ食いたさに飼い主のところに戻るように
おれもけっして叶わぬ願い叶えたさに元旦にぎょんでさまのところに戻ってゆく

今年こそは三キロ先の「おもしろオトナの秘宝館」なる冬でもないのに囲いが施されたジュースの自販機がおれの家の近所にも設置されますように……

今日おれは制作費二千円の映画のエキストラとして出演するはずだった
五時十五分発の東西線に乗って一時間半かけて七時半には目的地に着くはずだった
設定が冬頃の大学のキャンパスを楽しげに闊歩する大学生らの役だったらしいので
おれはちょっとでも人目を引こうと
この六月下旬の梅雨明けでまだはっきりしないクソみたいな暑さのなか
新幹線で三時間半かかるところに四年前にできたユニクロの開店セールで
おふくろが買ってきた上下合わせて五百円の寝巻きの上に
母校である中学校のまっきっきならぬおっおっおのオレンジのジャージを重ね着し
今は亡きじいさんの形見として持ってきた遺品の丈の短い長クツを履き
田舎から上京したての学生を勝手に演じてやるもりだった

染みついたシーツから漂うしずかな男女の寝息を背に七時のおれの腹時計
昨夜空けたのはミチコロンドン一箱だったけど
でも四時に起きたのは嘘じゃない
なぁ、ぎょんでさま
あんたが叶えてくれたのは
ぶっちゃけおれのアパートのまん前にある年中囲いが施されたアダルビデオの自販機だけさ
でもありがとよ
おれがなりたかったのは立派な役者じゃなくて
大根でもいいから詩人だったってこと
まだそのころは思ってもいなかったことをちゃんと察して
その道を踏み外さぬように仕向けてくれたんだから
なぁ、ぎょんでさま
今日おれは便秘で悩んでる彼女と下痢の話しをしながら
いっしょに一年賞味期限が切れたレトルトのインドカリーを
腹いっぱい食おうと思う


自由詩 神さま!仏さま!ぎょんでさま! Copyright 土田 2006-06-25 21:48:36
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