ノスタルジア
千波 一也
この路地裏の
アスファルトのひび割れは
どこかの埠頭の
それと
似ている
相槌を打ってもらえる筈が
ここにあるのは
頬を刺す風
見上げる雲の隙間から
一筋の光が降りて
背中の翼の
名残が
疼く
向かうところを持たない言葉は
幻のいのちとしての 純度を高めて
いつか 旋律になりたい、と
切に願う
結晶に包まれている、と憶えてしまうことは
とても哀しいけれど
さもなくば
形はますます 元を忘れてしまえるから
ひたすらに鋭く
結晶を好む
続いて止まぬ語りの袖に
夕日は映えて
独楽くるり
おそらくは
傾くものの総てが
時刻を正しく数えるのだろう
風は吹く
触れたかも知れない、という
まったく美しい
劣等のなかを
風は吹く