さよならネバーランド
蒸発王

夜が明ければ夢の後
大人の世界に
ピーター・パンはもう来ない



『さよならネバーランド』



開け放した窓が
梅雨晴れの日光を引っ張っている


家具を無くした部屋は
思っていたよりも
ずっと広くて
少し驚いた


空になった
君が愛した間取り
あげると切りが無いけれど
この部屋で使ったものは
小さいものから大きいものまで
全て始末してしまった


それでも

ネバーランドは
剥き出しのまま記憶に残っていて
少しの呼吸で胸に響くから
私はまだ歌えずにいる



引越し業者の去った後
部屋空気は白くくすみ
壁に塗られたペンキが剥がれ落ちて
細かい粒が床に落ちていた

白褐色の粉粒が
何かの遺骨のように感じられて
指ですくって舐めてみた
賞味期限が切れた夢の味がした



もう眠ったふりなんか
できないね

ピーターパンは行ってしまった

どうか
君は

君だけは

私を懐かしんだりしないで

どこにでもある思い出にしないで

もっと強い感情を燃やして
其の感情に私の名前をつけて

そしたらきっと

その分記憶は色あせるでしょう

私は
愛しさなんか忘れて

ただ万感の思いと共に


最後に窓を閉めて




さよならを歌うと思うの




『さよならネバーランド』



自由詩 さよならネバーランド Copyright 蒸発王 2006-06-22 00:19:07
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