フラグメンツ(リプライズ) #31〜40
大覚アキラ

#31

 言葉は
 無力ではない

 あなたの
 言葉が
 無力なのだ



#32

 今日は
 どこにも行く気がしないし
 なんにもしたくないから
 携帯電話の電源を切って
 きみとふたり
 ベッドにもぐりこんで
 世界の終わりごっこをしよう



#33

 穴掘り担当がやって来たが
 穴掘り用スコップ持参担当がまだ来ないので
 穴掘り担当はボンヤリ待っている
 やがて
 穴を掘る場所指示担当がやって来たが
 穴掘り用スコップ持参担当がまだ来ないので
 穴掘り担当と
 穴を掘る場所指示担当はボンヤリ待つしかなかった
 そのうち
 穴に埋めるもの持参担当と
 穴埋め担当と
 穴埋め用スコップ持参担当がやって来たが
 未だ穴掘り用スコップ持参担当は来る気配もなく
 四人はただボンヤリ待つしかなかった
 穴埋め用スコップ持参担当の手には
 しっかりとスコップが握り締められていたが、
 それはあくまでも
 穴埋め用スコップなので
 誰一人として
 それで穴を掘ろうとは言い出さなかった



#34

 眠らなくていい
 身体がほしい

 さもなければ

 好きなだけ眠ることができる
 時間がほしい



#35

 くちうつしで
 なまにくを
 たべさせてもらう
 そんなゆめをみたよ

 めざめたとき
 くちのなかに
 ちのあじが
 のこっていたよ

 けものみたいな
 やばんなきぶんのまま
 もういちど
 めをとじてねむったよ



#36

 たぶん
 ケータイとか
 インターネットとか
 メールとか
 そういうものなしでは
 生きていけない
 カラダになってるんです

 このあいだ
 ケータイを忘れて出勤した日
 あやうく
 死ぬところでしたからね



#37

 身体の表面が
 銀色に染まっていく
 そんな
 イメージで
 アスファルトを蹴って走る
 液体みたいな夜の空気を
 澱みなく切り裂いていくように
 まっしぐらに
 いまや
 ぼくはもう
 銀色の流線型だ
 夜を切り開いていく
 一振りの日本刀だ
 寄らば斬るぞ



#38

 「飴と鞭」って
 なんかカッコわるいからさ
 これからは
 「チョコレートとピストル」って
 いうことにしましょうよ

 いや
 それはダメだね
 ピストルじゃあ死んでしまうよ
 鞭なら
 お仕置き程度で済むけどね

 ああなるほど
 では死なない程度に
 ということで
 「バブルガムとメリケンサック」
 なんていかがでしょう

 長すぎるって
 「飴と鞭」
 5文字だよ
 「バブルガムとメリケンサック」
 13文字だよありえないよ

 文句が多いですねえ
 そもそもよく考えてみたら
 飴よりも鞭のほうを
 よろこぶ人だっているでしょう
 まずはそのあたりをハッキリしてくださいよ

 同感だよ君
 全く同感だよ
 だいたい飴にしたってだね
 オレンジ味なのかグレープ味なのか
 そのへんをまず(以下略)



#39

 朝起きたら
 脱皮していた

 自分の形をそのまま
 脱ぎ去ったみたいに
 薄いビニール状のものが
 ベッドにへばりついていた

 首の辺りには
 剥がれきっていない皮が残っていて
 つまんで引っ張ると
 少し痛かった

 彼女がやってきて
 ぼくの皮をベッドから丁寧にはがして
 ベランダに持って行った
 乾かして財布に入れると
 金運向上のお守りになるらしい
 
 絶対に
 どこか間違っている
 たぶん



#40

 センチメンタルな方向から
 ものごとを眺めるのは
 いとも簡単で
 しかもなんだか
 そっち側から見ると
 ものごとは
 美しげに見えたりするけれど
 それは
 ほんの一過性のものである


自由詩 フラグメンツ(リプライズ) #31〜40 Copyright 大覚アキラ 2006-06-19 23:48:26
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
フラグメンツ