無口な少女のうたう放課後
夕凪ここあ

今朝、校舎の前で
無口な少女を見た
目が合うと
少しだけ笑って
そのまま自転車の
静かなスピードで
追い越してった、八時十五分。

無口な少女の
名前を知らない、
先生が出席をとっても
無口な少女、
夢を見ていたかのような
憂鬱。

昼休みには本を広げて
教室の一番後ろ
喧騒から切り取られた窓際の席
無口な少女の本の名前が
わかるのに、未だ少女は
名前のないまま。

放課後、
もう誰もいない夕暮れに
うたう少女、
の名前はないまま。

ららら、
と、うたったのか
何か言葉があったかどうかさえ、
夢の中のように曖昧で。

  誰にも内緒よ。

そう言っていつか見たように笑う、
夕暮れに彼女の細い腕、首筋、髪が
溶けていく、それよりも前に
無口な少女の
透明すぎる声、が。

それから、八時十五分
無口な少女に会わなくなった校舎前、
誰も少女の名前を知らないまま
誰も少女の存在を気にしないままに、
無口な少女は。

  誰にも内緒よ。

窓際の机の端っこに書かれた
無口な少女の名前が
時間に削られてく
誰にも知られないままに。

無口な少女、
心地良い自転車のスピードで
何もかも
追い越してしまった
八時十五分、うたわない。


自由詩 無口な少女のうたう放課後 Copyright 夕凪ここあ 2006-06-17 17:52:22
notebook Home 戻る