初夏はすぐ傍まで来ているというのに・・・
海月

瞼を閉じその暗闇の中に輝かしい自分が其処にいる
気持ちを大切に生きていた
そんな気が今となってはするだけ

焦る気持ちは初心を更に削り落とす
自分で自分を傷付けている
その傷跡を舐めて慰める

長いコートを未だに身につけて外を歩く
行き交う人々は憐れんでいるかの様に僕を見る
穴の空いた靴からは雨水が沁みこみ
僕の微かな温度を奪い去る

馴れ合う心の奥底
別れの予感を半月に写し
僕の背中をそっと叩こうとしている

長い迷宮の様な人生
鏡の様な一本の人生
どちらを選んでみても何も変わらず
夕月夜が哀しくそびえ立つだけ

この街を後にするための最終列車
ストリートミュージシャンは八十年代の曲を歌う
過ぎる去り人の群れに共感を得て
必要最低限の暮らしをしている
と、彼は言いその場を離れた

予定はっしゃ時刻を指折り数えられるほど
残された時は短く月は僕の真上に昇っていた
僕の光跡に何処かで似ていた
もう下がることしかない存在価値

汽笛を虚空に鳴らし
鈍い音を立てて
最終列車は月のない暗闇に進んでいる
僕は列車とホームに佇んでいる

二つの思いは歩むべき道に別れ
徐々にその距離を離れて行く
僕に残されたのは輝きを失った錆び付いた身体
二度と輝くことはなく
ひっそりとその生涯を終え様としていた

初夏はすぐ傍まで来ているというのに・・・


自由詩 初夏はすぐ傍まで来ているというのに・・・ Copyright 海月 2006-06-15 01:30:28
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