かぐわしき
.

かたく閉じた両耳が震えた
ぐらつくほど景色は紅く燃え
わたし舟、かすかに揺れた気がして
しばらくこのままでありたいと
きえゆく視界に願った

なまえには最初から意味なんてないんだろう
つじつま合わせで笑うのが巧くなった
のり遅れた船が消えてゆく

ひが射し込んだ砂の城
ざしきに寝転がる猫は故郷の夢を見ている
したくが済んだあなたがドアを開ける



かしこい嘘さえ吐けずに
わりきれない計算ばかり
いつもより少し広いソファー
ただわめくだけのテレビ

はち月はそこまで来ている
なまえの意味は私にはまだない
がい灯が踊る街にそんな者は居ない

ゆうぐれの渡し舟は戻らない
れつを成す亡霊達
るり色の影



『芳しき夏の日差し、乾いた花が揺れる』


自由詩 かぐわしき Copyright . 2006-06-13 04:45:30
notebook Home 戻る