蝙蝠傘
暗闇れもん

街角で黒い蝙蝠傘の君に出会った
夕闇に隠れてこちらから顔は見えないけれど
黒い傘からちらちらと映える赤い紅の色が卑猥で
どうしようもなく赤面してしまったことを覚えている

こんな記憶に必死にしがみついている俺って笑えるだろと
貴方は笑うのだろうけれど
私は何だか昔の自分に負けてしまった気がして
唇を噛み締めたまま
うつむく事しかできなくて

何故あの時、雨も降っていないのに黒い蝙蝠傘で歩いていたのかなんて
貴方は聞かないから
私はここにこうしているのよ
なんて言えないわね

過去に縛られて
吸う空気さえ面倒になってきているのかしら
私は何度も咳き込み遠くなった意識で
貴方は私の向こうの誰を愛してきたのとそっと繰り返した
返ってきた言葉は確かに愛の言葉
けれどそこに私は居ないの
泣きながら子供のような私
笑顔と優しさの奥で貴方の苛立ちが見える
私は何処かで大人になるための何かを忘れてきたの
ずっと変わらない私を果たして貴方、愛してくださる?
愛して、愛してとまるで貴方を縛る呪文のように
私があの時、蝙蝠傘でいたのは
貴方を今こうして苦しめるためではないのに



自由詩 蝙蝠傘 Copyright 暗闇れもん 2006-06-11 14:56:22
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