午後と熱
木立 悟




見える水音
見えぬ水音
草を伝い
草を描く


影を避けて
水を歩む
雨のあとの
浮き沈む道


おぼえられ
わすれられ
名前は鳥のようにすぎる
地は蒼い
光は
羽になるまで羽をなぞる


水に満ちた
名づけられない器の底を
双つの左目のうちの
片方で見つめる
羽が
いくつか水をたたく
音が
いくつか沈んでゆく


頭の上に
頭をのせる
淡くやわらかな
誰かがいる
雨をよこぎる声と
窓をよこぎる声をつなぐ
小さな鈴たちの声がする


蝶がすぎてゆく
自身も 自身以外のものも
すべて色の波間に消え去る
蝶がすぎてゆく
蝶のかたちの熱が
そのあとを追う











自由詩 午後と熱 Copyright 木立 悟 2006-05-29 22:56:58
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